熟年離婚をしたら、年金はどうなりますか?ファイナンシャルプランナー井戸美枝さんに聞く「年金分割制度」

マチュア世代が離婚をしたら、年金はどうなるかご存じですか。年金の分割にはルールがあります。ファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんに、「年金分割制度」の仕組みを教えていただきましょう。「夫の年金の半分」を分割してもらえるのでは?——というのは間違いです。

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年金暮らしで夫に先立たれたら、年金はどうなりますか?井戸美枝さんがアドバイス

【57歳 派遣社員Cさんの悩み】
離婚を考えていますが、扶養の範囲で働いてきたので国民年金しかなく、老後が心配です。夫の年金の半分を分割してもらえると聞いたのですが、本当ですか?
【井戸さんのアドバイス】
●分割できるのは、婚姻期間中の夫の厚生年金だけです。
●分割の方法には、「合意分割」と「3号分割」があります。
●分割された年金は、年金受給年齢~生涯受けとれます。
●年金事務所に相談すると、分割される金額を調べられます。

「年金分割制度」とは?

たしかに請求すれば夫の年金を分割してもらえますが、半分ではありません。まず、「年金分割制度」について説明しましょう。
ご相談者のように、夫婦のどちらかが外で働き、もう一人が家で家事や育児などを分担していたり、働いても扶養の範囲にとどめていた場合、離婚すると、将来受けとる年金に大きな差が生まれます。また、共働きだった場合でも、夫婦の賃金に差があると納める保険料にも差が生まれ、年金額にも差ができてしまいます。
でも、結婚していたあいだの年金は、夫婦で協力して築き上げたもの。離婚しても、夫婦が年金を公平に分けられるように、2008年に設けられたのが「年金分割制度」です。

年金分割の3つの基本ルールを知っておこう

年金分割の基本ルールは、次の3つです。

①分割できるのは、厚生年金と旧共済年金(2015年に厚生年金に一元化)のみ

年金分割は、夫婦の厚生年金を合算して、多い方から少ない方に分割します。専業主婦で厚生年金がない場合は、夫の厚生年金を妻に分割することに。一方、共働きで夫婦とも厚生年金に加入している場合は、夫婦の年金を合計して分割します。
国民年金は対象外ですから、自営業などで夫婦とも国民年金にしか加入していない場合は、分割できません。また、国民年金基金や企業年金も、分割の対象外です。

②分割できるのは、結婚していた期間中の年金のみ

分割できるのは、婚姻期間中に厚生年金保険料を支払っていた厚生年金です。独身時代に加入していた期間の年金は、分割できません。

③分割された年金が受けとれるのは、年金支給開始年齢から

年金分割が決まっても、離婚してすぐに年金を受けとれるわけではありません。65歳など自分の年金支給が始まったとき、分割分が上乗せで支給されます。
年金分割について、「夫の年金の半分はもらえる」「離婚したらすぐ年金が受けとれる」と思い込んでいる人をよく見かけますが、まちがった知識のまま離婚すると後悔しかねないので、くれぐれも注意しましょう。
また、「何度も結婚して離婚すると、年金がいっぱいもらえる」というのもカン違い。分割できるのは婚姻期間中の年金だけですから、トータル年数に限りがあり、再婚→離婚を繰り返してももらえる年金が大きく増えることはありません。

離婚した時期によって、分割の仕方が変わる

では、実際に年金はどう分割されるのでしょうか。
年金分割には、「3号分割」と「合意分割」の2種類があります。

自動的に半分に分割される「3号分割」

2008年4月1日以降に離婚したり、婚姻期間があり、夫婦のどちらか一方に第3号被保険者の期間(会社員や公務員に扶養されていた期間)がある場合は、相手の同意がなくても婚姻期間中の厚生年金の半分を分割で受けとれます。第3号被保険者が対象なので、「3号分割」と呼ばれます。
分割の割合は5割と決まっていて、事実婚でも請求が可能です。

話し合いで分割割合が決まる「合意分割」

2008年4月1日以前に離婚したり、婚姻期間がある場合は、「年金を分割するかどうか」と「分割の割合」を話し合って、合意すると年金が分割されます。
夫婦共働きでふたりとも厚生年金に加入していた場合も、婚姻期間の全期間を合意分割で年金分割します。婚姻中の厚生年金を比較して、厚生年金が多い方から少ない方へ分割するかたちになります。
分割の割合は、上限5割まで。話し合いで合意に達しないときは、家庭裁判所の調停、または審判によって決定されます。
たとえば……
1993年に、夫28歳(厚生年金加入6年目)、妻22歳(専業主婦・厚生年金加入歴なし)で結婚。2023年に離婚した場合
分割の対象:夫の28~58歳までの厚生年金
分割の割合:1993年~2008年4月まで、合意分割(話し合いによる合意が必要)
      2008年4月以降~2023年まで、3号分割(合意がなくても5割を分割)
※実際の年金分割では、年金額計算のもとになる「保険料納付記録」を分割します。たとえば、夫が会社員、妻が専業主婦の場合、婚姻期間中の夫の厚生年金の納付記録を分割して、妻の記録につけかえます。

年金分割の請求期限は、離婚後2年以内

年金を分割するには、当事者の一方、または双方からの請求が必要です。離婚したあとからでも請求は可能ですが、期限は離婚から2年以内。手続きは、年金事務所や年金相談センターなどで行えます。
ただし、年金分割が成立しても、分割された年金を受けとるためには、老齢基礎年金を受け取る資格が必要です。老齢基礎年金は加入期間が10年以上ないと受けとれません。自分の年金を増やすためにも、国民年金の種別変更手続きを行って、離婚後も保険料をおさめていきましょう。
手続きは、第3号被保険者から、第1号被保険者(自営業やフリーランスなどで働いたり、無職になる場合)は、市区町村役場で。厚生年金に加入して働く場合は、会社が手続きしてくれるので届け出は不要です。

分割された年金は、生涯受給できる

年金分割をしたあとは、離婚した夫が亡くなっても、年金は支給されます。また、再婚した場合でも、分割された年金は予定通り出ます。
また、分割した年金は、自分の年金として、60歳前半に繰り上げて受給したり、65歳以降に繰り下げて受給することも可能です。
厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、離婚による年金分割で、合意分割によって増えた年金額は月平均で3万1112円。一方、3号分割によって増加した年金額は月平均6000円です。意外に少ないと感じるのではないでしょうか。
離婚後、実際にどれくらい年金が分割されるか知りたい場合は、年金事務所に相談しましょう。相手に知られずに、金額を調べられます。
夫婦ふたりなら年金額は一般に10数万円~20数万円ありますが、離婚後は一人10万円前後に減るのが一般的。離婚を考えているなら、離婚後に備えて貯蓄したり、仕事を探すなど、綿密な準備が必要といえるでしょう。

プロフィール
井戸美枝
ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、社会保険労務士、国民年金基金連合会理事。生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題が専門。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに、雑誌や新聞に連載を持つ。『親の終活 夫婦の老活 インフレに負けない「安心家計術」』(朝日新書)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!増補改訂版』(日経BP)など著書多数。
ホームページ:http://mie-ido.com
Twitter:@mieido