【詳細解説】「墓じまい」の正しい手順と費用の相場 穏便に、円滑に遺骨を移すために知っておくべきポイント

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トラブルにならないよう「墓じまい」の正しい手順を知っておこう(イメージ)

 近年、墓じまいに取りかかる人が増えている。墓じまいとは、今ある墓を撤去して更地にして、寺や霊園などの墓地管理者に区画を返すことを指す。新たな墓所に納骨することは「改葬」と言うが、近年は一連の手続きを「墓じまい」と呼ぶことが多い。

 厚生労働省の「衛生行政報告例」によると、墓じまいを行なった人はここ10年で1.5倍に増加した。2011年度の墓じまい件数は約7万7000件だったが、2021年度は約11万9000件に達した。

 墓じまいは「改葬先の墓を決める」「現在、納骨されている寺に連絡して了承を得る」「各種書類の準備」「閉眼供養ののち、墓を撤去」「新しい墓所に納骨する」までが一連の流れとなる。まず、すべての前提となるのが、「後で揉めないように親族間での了承を得ておく」ことだ。お墓じまい総合サポート援人社代表の竹田繁紀氏が語る。

「事後報告ではなく、事前に相談することを強く勧めています。先代が墓を購入する際に、親戚が金銭面で援助していたということもよくあります。そういう場合は特に、口を出されると面倒だからと勝手に進めると、『相談なく墓じまいをされて、お参りする墓がなくなった』となりかねません。

 もちろん、事前に相談しても『お墓を片付けるなんて罰当たりだ』と反対されるケースもありますが、そこの手間は惜しまないことです。墓をめぐっては、親族間の心情的な違いが表出しやすい。だからこそ、事前の合意が重要になるのです」

 了承を取る親族の範囲の判断は難しい。親の兄弟姉妹に留まらず、さらに遠縁が墓参しているケースも想定され、多少の時間をかけても確認を怠らないほうがよい。疎遠な親族と連絡を取るのに気が引ける場合はどうすればいいのか。

「久しぶりに連絡を取る場合、口頭だとどう切り出してどんなふうに伝えたらいいのか難しく感じると思うので、手紙を書くことを勧めます。墓じまいの改葬先や進め方、子供たちに墓の問題を残したくないといった事情を丁寧に書きましょう。それでも反対されたら、『あなたが墓を引き継いでくれますか』と尋ねます。そうやって話を進めると理解してもらえるケースが多い」(同前)

 親族から了承を得られたら、「後になって何か言われることがないように、了承した旨を記した念書を残しておく、というやり方もよくあります」と竹田氏は付け加えた。

墓じまいから改葬までの7つの流れと注意したいこと

墓じまいから改葬までの7つの流れと注意したいこと

住職が“先延ばし”することも

 続いてのステップは寺との交渉だ。竹田氏は「一般的には良心的な住職の方が多いのですが……」と前置きしたうえでこう語る。

「お寺にとって離檀は死活問題です。離檀の相談をすると、住職によっては『来年の夏にもう一度お話ししましょう』などと先延ばしにされることがあります。2回程度はぐらかされると6~7割の檀家さんが離檀を諦めるとも聞きます。そうしたなかでさらに強く墓じまいの意向などを伝えると、高額な離檀料を求められることがあります」

 離檀料の請求に法的な根拠はないものの、穏便に話を進めるために、多少の額を「お布施」として包むことも考慮に値するという。

「墓じまいの手続きに必要な書類として『埋蔵証明書』が必要ですが、証明書には納骨されている寺院の墓地管理者からサインをもらわないといけません。そのサインを盾に離檀を拒否したり、高額な離檀料を求められたりするケースもありますが、墓地管理者は請求があった時には証明書を発行する義務があります」(竹田氏)

 つまり、寺院の側が墓じまいや改葬を「許可しない」ということはできないのだ。

「その前提を理解したうえで、親が寺に世話になったという気持ちがあるのなら10万~30万円くらいのお布施を払うといいでしょう。その際には、檀家をやめる決断をした経済的な事情や墓の承継者がいないことなどを包み隠さず話しましょう。

 ただし、寺格や僧階、檀家歴などによっては高額を請求されることもあります。そういったケースでは私たちプロに相談してもらうのもひとつの手です。我々が間に入る場合は、依頼者の意向や高額な離檀料を支払うことができないといった経済状況についての説明をすることで寺側に理解をお願いし、円滑な離檀をサポートします」(竹田氏)

墓じまい・改葬、工程ごとの「費用の目安」

墓じまい・改葬、工程ごとの「費用の目安」

費用はトータルで280万円程度かかるのが相場

 寺との交渉が済んだら、「墓地埋葬法」に基づく手続きを進める。遺骨の移転先が発行する「受入証明書」、元の墓地にサインをしてもらう「埋蔵証明書」、元の墓地のある自治体が発行する「改葬許可申請書」の3点セットを持って元の墓のある自治体の役所に提出する。それにより「改葬許可証」が発行される。

「新しい納骨先がある場合は『改葬許可証』が必要となりますが、手元供養など自宅に遺骨を置いておくだけなら本来、書類は必要ありません。ただし、後になってどこかに納骨するということも考えられるので、先に書類を取っておくことが望ましいです」(竹田氏)

 自治体によっては改葬許可証の発行までに1週間以上かかったり、1通数百円の発行手数料がかかることもある。余裕を持ったスケジュールで準備できるとよい。各種書類の手続きが済んだら、墓石の撤去などを始めていく。具体的に遺骨を移す作業を進めていくなかでは、それぞれの工程で発生する「費用の目安」を知っておきたい。別掲表にまとめた通り、改葬先によってもかかる費用は大きく変わってくる。

「閉眼供養や墓の撤去と遺骨の取り出しを経て、一般の墓に再び納骨するというプロセスなら、費用はトータルで280万円程度かかるのが相場とされています」(竹田氏)

 墓石の撤去費用はケースバイケースだが、どういった場合に相場よりも高くなるのかは知っておくとよい。大橋石材店代表でお墓コンサルタントの大橋理宏氏はこう指摘する。

「撤去費用は1平方メートルあたり10万~20万円が相場だと考えてください。ただし、墓石の材質や墓が建つ場所によって変わります。田舎の山奥で重機を入れられない場合などは手作業で墓石を壊すことになり、高額になりがちです」

10年間で1.5倍に。墓じまい件数が急増している

10年間で1.5倍に。墓じまい件数が急増している

石材店の選び方は?

 一方、竹田氏は作業を頼む石材店選びについて注意を促す。

「寺と石材店の関係は数十年続いているケースもあります。そのため、出入りの石材店を指定されることがありますが、複数の業者から見積もりを出してもらうかたちが望ましい。過去には石材店が1社に指定されている事例で、通常は工事費50万円程度の見積もりのところを80万円プラス遺骨取り出し作業費と心付けで合計100万円ほどの見積もりを出してくるケースもありました」

 工事費が適正な価格かを判断できる知識を持っておいたほうが望ましいわけだ。最後に新たな墓に納骨することになるが、改葬先の経営状態や納骨の形式などをきちんと理解しておくことが、後々のトラブルを防ぐために重要になる。以上の手順を踏むのは決して楽ではないかもしれないが、ある程度の時間をかけてことを進めていくのも大切なことのようだ。前出の鵜飼住職はこう総括する。

「子供や孫に負担や迷惑をかけたくないから墓じまいをするという人が増えています。それはそれで必要なことですが、子供が墓をどう捉えているか、自分は先祖が眠る墓をどういうものと考えているかを一度、顧みることも必要です」

 墓をめぐる問題は、様々な人の“気持ち”と密接に関係する。まずは自分の思いを整理することで、家族や寺院にも考えを伝えやすくなり、結果的に墓じまいを円滑に進めることにつながるのかもしれない。

※週刊ポスト2023年11月17・24日号