「これはスゴイ」日本列島をつらぬく大断層がはっきりわかる…!「3000万年の列島史が露出」する奇跡のスポット

藤岡 換太郎

数回にわたって、日本列島の真ん中に穿(うが)たれた深さ6000kmの大地溝「フォッサマグナ」について、その地質学的特徴をご紹介してきました。こうした地質学的に貴重なスポットも、知らずにいると、気づかずに通り過ぎてしまいがちです。「先達はあらまほしき事なり」などと言いますが、その特徴や特異点、科学的知見を教えてくれる案内役(ガイド)がいると、興味も一層深くなるというものです。

地球科学的意義のあるエリアや景観が保護、教育、持続可能な開発などの総合的な考え方によって管理されたている、ひとつにまとまった区域を「ジオパーク」として整備する事業が進んでいるのをご存知の方も多いと思います。

今回は、これまでご紹介してきた一連の記事とは、少し趣向を変えて、とくにフォッサマグナに関係するジオパークをご紹介したいと思います。実際に現地に旅し、日本列島誕生の舞台に立ち会われる際には、ぜひご参考にしていただきたいと思います。

【書影】フォッサマグナ

*本記事は、『フォッサマグナ 日本列島を分断する巨大地溝の正体』の内容から、再編集・再構成してお送りします。

大地の公園「ジオパーク」

みなさんがフォッサマグナをこの目で見てみたい、あるいは本書に出てくる関連スポットに行ってみたいと思われたら、「ジオパーク」に足を運ぶことをお勧めします。

ジオパークとは「大地の(ジオ)公園(パーク)」という意味で、地球に親し み、楽しみながら学べる場所という基準で選ばれています。世界では2000年に ヨーロッパの有志が立ち上げ、2004年には世界ジオパークネットワークが発足して、2018年4月現在で48ヵ国の195件が世界ジオパークに選ばれています(2023年5月現在)。日本では、石川県白山市全域を対象とする白山手取川ジオパークが2023年に選ばれて10件が登録・認定されています。

一方で、2009年には日本ジオパークネットワークが設立されました。趣旨は世界ジオパークと同様で、2018年現在、世界ジオパークに選ばれた10件を含む46件が選ばれています。

【写真】ユネスコ世界ジオパークのアポイ岳地殻の下にあるマントル由来の橄欖(かんらん)岩が見られる日高地方のアポイ岳は、「アポイ岳ユネスコ世界ジオパーク」に指定されている photo by madk

単なる名所ではない! 重要視される「学び」

ジオパークに選ばれるには、地質学的に重要であることに加え、考古学的、生態学的、あるいは文化的のいずれか一つには価値があることが条件となっています。歴史や文化も評価されるのです。そして、環境や資源を将来につなぐために人々の意識を高める教育に資する場所であることも求められます。世界遺産との違いは、世界遺産は「保存」が重要ですが、ジオパークは保存だけでなく「教育」が重視されているという点です。

目には見えない地下6000mという地溝の巨大さを想像し、1500万年前にそれが形成されたときの地球科学的な大イベントに思いをめぐらせることができるフォッサマグナは、まさにジオパークにふさわしい場所です。そして実際に、日本のジオパークにはフォッサマグナに関連するところがいくつも選ばれています。2018年にユネスコ世界ジオパークに認定された伊豆半島も、南部フォッサマグナそのものです。

今回は、とくにフォッサマグナとの関連が強いジオパークのうち、「糸魚川ジオパーク」と「南アルプスジオパーク」を紹介していきます。

フォッサマグナがその目で見られる「糸魚川ジオパーク」

糸魚川ジオパークは2009年に日本で最初にジオパークになった五つのうちの一つで、新潟県の西端の糸魚川にあります。なんといっても、フォッサマグナの西の境界である糸静線の、一方の端であることから、フォッサマグナに出会うなら最初に訪れたいジオパークです。

その「売り」は、提唱者ナウマンの資料が充実しているフォッサマグナミュージアムもさることながら、やはり、野外で糸静線を実際に見られることでしょう。礫でつくった石垣からのぞく糸静線の両側には、「東」「西」と大きく書かれたパネルが掛かっていて、東西日本の境目であることが強調されています。

image
フォッサマグナパークは糸静線の上。東と西の大きなパネルが目を引く photo by joh maruoka

また、フォッサマグナの「端」だけに、西端からフォッサマグナ内部に入り、東に出るという「フォッサマグナ横断」が簡単にできるのも魅力です。

そのほか、野外では糸静線の断層の露頭や、海底火山活動の産物である枕状溶岩などが観察でき、フォッサマグナの地層や古い基盤なども巡ることができます。

そして、糸静線の西側では古生代の青海の変成岩、明星山の大岸壁ではサンゴ礁やウミユリの化石が見られ、この地域の発達史を知ることができます。

地質と文化の関わりも学べる

親不知という名がある海岸では、宝石の翡翠の礫が採集できます。もともと糸魚川は日本最初の翡翠の産地として知られていて、小滝川に沿ったところには翡翠峡ともいわれる翡翠の露頭があります。

糸静線はまた、「塩の道」とも呼ばれていました。海で採れた塩や海産物を内陸部に運ぶための重要な運搬路にもなっていたからです。ほかにも、穀類やたばこなども、ここを通って東西を行き来していました。

【写真】姫川と塩の道「塩の道」に沿って流れる姫川。翡翠峡は、この姫川の支流小滝川にある。風光明媚な塩の道を、存続が取り沙汰されっている大糸線が走る photo by gettyimages

地質だけでなく、言語から食べものの味まで、さまざまな意味で東西日本を分けているフォッサマグナで、この構造線は東西双方をつなぐ役割もはたしていたのです。

糸魚川ユネスコ世界ジオパーク

日本列島の形成や糸魚川の文化・歴史を学ぶことができる「24のエリア」からなります。フォッサマグナ関連としては、「日本列島形成の歴史を知る」として、9つのエリアがあげられています。

フォッサマグナパーク

姫川の支流・根知川沿いのおよそ500mの遊歩道を歩きながら、「糸静線」断層路頭やフォッサマグナの海に噴出した日本最大の枕状溶岩などが見学できます。大糸線根知駅から徒歩20分、糸魚川市内より車で20分ほど。

フォッサマグナミュージアム

地球や日本列島の誕生をわかりやすく展示した、石の博物館。所在地は、新潟県糸魚川市大字 一ノ宮の美山公園内にあり、糸魚川駅からバス、タクシーで10分ほど。糸魚川駅前よりレンタサイクルも利用できます(30分ほど)。

まさに中央構造線の真上「南アルプスジオパーク」

南アルプスとは、長野、山梨、静岡の3県にまたがる赤石山脈の通称です。

赤石山脈は伊豆・小笠原弧の本州衝突によって急激に隆起した、南部フォッサマグナの代表のような山脈で、最高峰の北岳(3193m)をはじめ、間の岳(3189m)、荒川岳(3141m)、赤石岳(3120m)など3000m超の峰を13も抱え、壁のように聳え立っています。フォッサマグナを初めて見たナウマンを感動させたのも、甲斐駒ケ岳や鳳凰など、この山脈の北部がつくりだした景観でした。

【写真】南アルプス中白根山から北岳中白根山(3055)から、北岳山頂を見る。手前の赤い屋根の建物は、北岳山荘 photo by gettyimages

南アルプスジオパークは長野県飯田市にあって、その事務所は中央構造線の真上に建っています。中央構造線が描く「八の字」の左側の字画が、ぐーっと北に上がっていくあたりです。

南アルプスジオパークの大きな「売り」のひとつも中央構造線で、その周辺の岩石がたくさん展示されているほか、中央構造線が見られる露頭も、板山、溝口、北川(本記事冒頭の写真。赤茶の層が内帯で、灰色が外帯)、安康、程野など5ヵ所あります。露頭にはバイクのツアーの若者がよく訪れています。

【地図】南アルプスジオパークの5つの露頭南アルプスジオパークの5つの露頭

深海底が、今は標高3000メートル

なお、赤石山脈という名前のもとになったのは、赤い「チャート」です。チャー トとは、遠洋の深海底に棲む放散虫(プランクトンの一種)の死骸が堆積して岩石 になったもので、現在、赤いチャートの露頭は塩見岳で見ることができます。そのほか、小黒川に沿ってアンモナイトの化石も産出します。

海のない場所でこうした 海洋生物の化石が出てくることは、それらが伊豆・小笠原弧の衝突によって深海から陸に乗り上げ、付加したことを物語っています。

【写真】チャートのある大阿原湿原南アルプスジオパーク北端に位置する入笠山麓の大阿原湿原。この湿原内にも多くのチャートが転がっているという

中央構造線をはさんで南側のジオサイトでは、秩父帯や三波川変成帯の岩石類などが見られます。北側には領家変成帯が出ています。これらは、西南日本に特徴的な、中央構造線と並行に走る古い地質帯です。ところが、糸静線を越えてフォッサマグナに入ると、ぷっつりと見えなくなってしまうわけです。

しかし、関東の下仁田ジオパーク(群馬県)に出かけていってそのジオサイトと比べると、それらの地質帯は消えたわけではなく、フォッサマグナをはさんで連続していると実感することができます。下仁田ジオパークについては、また別の機会にご紹介したいと思います。

南アルプス(中央構造線エリア)ジオパーク

3,000m級の山々抱えた南アルプス。200万年前ころから隆起を始めた南アルプスは、年間4mmという、世界でもまれに見る速さで今でも少しずつ高くなっています。また、氷期の生き残りであるライチョウやハイマツなどの、世界の分布の南限となるなど、貴重な自然環境を有しています。また、関東から九州まで続く日本最大級のこの断層、中央構造線をいくつかの露頭で観察できます。

大鹿村中央構造線博物館

姫川の支流・根知川沿いのおよそ500mの遊歩道を歩きながら、南アルプスの主峰赤石岳の山麓、「中央構造線」のほぼ真上に建つ博物館。中央構造線と大鹿村の岩石標本の展示を中心に、地震と地殻変動、災害と地形のでき方などを知ることができます。飯田線伊那大島駅からバスで1時間ほど。中央道の通る松川町から車で40分ほど。

国道152号線沿いの露頭

長野県と静岡県を結ぶ国道152号線のうち、杖突街道(長野県茅野市から伊那市高遠町)、秋葉街道の高遠から飯田市の区間を中心に、記事でご紹介している路頭が分布しています。また、伊那市と大鹿村との境にある分杭峠では、断層に沿って侵食されてできた南北方向の谷の眺望から、中央構造線を実感することができます。

訪ねる前に読んでみよう! 藤岡 換太郎さんによる「フォッサマグナ」シリーズ

  • じつは「横柄なお雇い外国人」だったナウマン…!?本当は「ゾウ発見」よりスゴすぎる「日本初の地質図」の中身
  • ナウマン先生が思わず立ち尽くした絶景…!なんと、日本列島の過去から未来までを解明するカギだったという「衝撃の事実」
  • 日本列島を「くの字に曲げている溝」その深さ、なんと6km…!その底にある「御歳数千万歳の岩」の正体をご存知か
  • 日本列島を真ん中で折り曲げる「フォッサマグナ」…なんと、南と北では「まったく違う」地質だった
  • なんと、長野県で深海生物が泳いでいた…!北部フォッサマグナの地層から見えてきた日本列島「逆くの字の内側」で起きた激動の変化
  • じつは、丹沢は巨大な珊瑚礁の島だった…!関東の名峰に押し上げた「伊豆半島の本州衝突」は、南部フォッサマグナ形成のカギだった
  • ※記事リストのリンクはブルーバックス・ウェブサイトで機能します。他サイトでお読みの方は、【関連記事】からご覧いただけます。

    フォッサマグナ 日本列島を分断する巨大地溝の正体

    書影】フォッサマグナ

    本書の詳しい内容はこちら

    明治初期にナウマンが発見した、日本列島を真っ二つに分断する「巨大な割れ目」フォッサマグナ。その成因、構造などはいまだに謎に包まれている。日本地形を作る謎の巨大地溝に、地学のエキスパートが挑む!