アベノミクス支えた黒田日銀総裁が退任! 超低金利が終わると生活どうなる?

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4月8日に退任する黒田日銀総裁(写真:時事通信)

4月8日、日本銀行総裁の黒田東彦総裁が退任する。2013年から10年にわたりアベノミクスを支えてきた元大蔵官僚の黒田氏。後任は経済学者の植田和男氏となる。

「植田氏は学者ではありますが、机上の空論ではなく、日銀の審議委員を務めていた経験もあり、“量的緩和策”を理論面で支えた実務家といってよいでしょう」

そう解説するのは経済評論家の加谷珪一さんだ。アベノミクスの柱がこの量的緩和策だった。長く続いたデフレからの脱却という名目で、日銀はインフレ率2%の目標を掲げ “お札をばんばん刷ってきた”。

「日銀は国債を大量に買うことで、その代金として日本円を金融機関に大量に供給してきました。金融機関はお金があるから融資しやすいし、企業は設備投資を整えて事業を拡大できる。これで経済が改善するという触れ込みだったのですが、もともと日本経済は疲弊していて、思うように成長できませんでした」

一方、国債の残高はふくらんでいった。さらに、近年の世界的なインフレで世界各国が金融引締め策をとるなか、日本が量的緩和策を続けることで、急激な円安を招き、国内のインフレにも歯止めがかからなくなっている。

「植田氏の表面的な人物像からは“黒田路線を継承する流れ”のように受け取られています。しかし、これまでの植田氏の発言や論文を分析すると、量的緩和策に前向きでありつつも、やりすぎはよくない、際限なく国債を発行する危険性などを指摘しており、現実主義者でもあります」

市場に出回るお金が増えると金利が下がる。現在、日本は異常な低金利のなかにある。

「かつて、金利は2~3%は当たり前で、バブル時代は7~8%もありました。しかし、現在はほぼゼロです。それでは銀行は融資しても稼げません。この異常な低金利から脱却するため、まず新総裁は長期金利0.5%を1%ほどまでに誘導するのではないか……。これが最大の関心事となっています」

■住宅ローン3千万の人は年5万8000円も支払いが増える

金利が上がれば、インフレの抑制になるが、かじ取りは難しい。

「クレディスイスの経営不安やシリコンバレー銀行の破綻のように、海外では金融緩和から脱却することで、副作用が起きています。日本では長らくゼロ金利が常態化。無金利で融資を受けられていた中小企業のなかには、金利が上がることで倒産の危機に直面するケースもあるでしょう。そもそも国の借金は1千兆円ありますが、金利が1%となると利息は10兆円です。5兆円の防衛費を増額するために四苦八苦なことからも“たかが金利1%”と侮れないのです」

こうした経済情勢の変化は家計にどのような影響を与えるのか。まず、懸念されるのが住宅ローンへの影響だ。

「長期金利が0.5%から1%に上がった場合、現在2%前後の固定金利型の住宅ローンは、2.5%前後に引き上げられる可能性があります。すでにローンを組んでいる人は、返済額は変わりませんが、新たに住宅を購入する人は同じ物件を買うにしても、月々の支払い額、総支払い額が増えてしまいます」

一方、日銀が直接的にコントロールできる短期金利。長期金利がスムーズに上がれば、こちらが上がるのはしばらく先になりそうとのことだが、

「ソフトランディングできなければ、2年前後で短期金利が上がる可能性もあります」

生活経済ジャーナリストの柏木理佳さんが語る。

「住宅ローンの変動金利は短期金利に連動しているため、ローン返済中の人は、月々の返済額が高くなることもありえます」

かりに短期金利が0.5%上がると、どのくらい負担が増えるのか。

「10年前に返済期間35年で3000万円のローンを組んだ場合で単純計算すると、変動金利が0.4%なら月の返済は7万6557円ですが、0.5%上がって0.9%となると月の返済額は8万1370円と、4813円の増額に。年間にすると、約5万8000円も負担が増えるのです」

■金利引き上げでもインフレは続く可能性

本来はインフレを抑制する効果が期待できる金利引き上げ。だが、食品や日用品の物価上昇には歯止めがかからないかもしれない。

「金利が上がれば、企業は利息を返さなければなりません。長らく続くゼロ金利になれた企業にとっては厳しい状況。賃金を上げたり、コスト高のなかで儲けを出すには、物の価格を上げるしかありません」(加谷さん)

さらなる懸念が老後資金の影響だ。金利が上がることで、利息の返済に苦しみ、経営が悪化する企業も出てくる。

「そうなれば株価が下がります。iDeCoのような株価に連動した積立投資をしている人にも影響が出ます」(加谷さん)

また、200兆円近くもの年金積立金の半分を株式運用しているGPIFの損失も大きくなる。実際に2022年4月から12月までに、7兆3000億円を超える損失を出しているのだ。

「そもそも公的年金の積立金の半分を、リスクある株式投資で運用しているのは日本くらい。将来の年金財源の不安要素です」

こうした事態に陥らないためにも、植田新総裁の手腕、そして政府の経済対策が問われるのだ。