「中国人」が《日本の水源地を買い漁っている》…調査データに隠れた「驚きの事実」

「外資による農地取得」の実態

筆者の暮らす北海道では、しばしば外国人(外資)による土地の買収が話題になる。読者の中にも、「中国人が水源地を買い漁っている」といった言説を目にしたことのある方が多いのではないだろうか。

image

たしかに、北海道では外国人や外資による土地取得が徐々に拡大している。北海道庁のまとめによると、2012年から2022年までの11年間で、外国人などによって取得された森林面積は3倍以上に拡大した。

過去には航空自衛隊千歳基地近くの土地が中国資本によって取得されたことが発覚し、安全保障上の懸念が議論される事態になったこともある。

こうした外国人や外資による土地取得をめぐっては、批判的な声も多く上がっている。

「水不足に陥っている国が日本の水源地から取水して、水を輸出しているのではないか」

「外国人が農地を買い占めることで日本の食料安全保障が脅かされるのではないか」

「中国人が土地を買い集め、事実上の自治区を作るのではないか」

「そもそも、なぜ外国人が自由に日本で土地を買えるようになっているのか」

など、インターネット空間で確認できるだけでも、実に多種多様な懸念の声が確認できる。

確認すべき「客観的な事実」

だが、筆者の限られた知見では、これら全ての懸念についてその是非を判断することは難しい。たとえば、水源地に関する問題を考えてみると、現在のところ、地下水の不正な利用が大きな問題とはなっていないが、秘密裏に水の輸出が行われている可能性を完全に排除することはできない。

もちろん、筆者の個人的な意見としては、わざわざ莫大なコストをかけて水を輸出する合理性はかなり低いように思うが、実際に現場を調査した経験はないので断定することはできない。

一方、外国人や外資による土地取得をめぐる懸念のうち、とりわけ農業にまつわる点については、客観的なデータに照らして、その不安を解消できるものもある。たとえば、政府は毎年、外国人などによる農地取得の実態を調査し、その結果を公表している。多くの方にとっては、その結果を確認するだけでも、この問題についての認識は変わるかもしれない。

では、外国人の農地取得をめぐって、我々が確認するべき客観的な事実とは一体なにか。以下、順を追って説明していこう。

なお、この記事では便宜上、「外資」を外国人および外国法人を包括的に指す語として用いながら説明をしていく。

農地取得が確認されたのはわずか1件

まずは外資による農地取得の実態を確認していこう。


Photo by iStock

冒頭でも触れたように、森林についてはここ数年で外資による土地取得が拡大している。農林水産省のまとめによると、2006年から2022年までの17年間で、「居住地が海外にある外国法人又は外国人と思われる者」が取得した森林面積は累計2732ha(1ha=1万㎡)に及び、これは東京都品川区の広さに匹敵する規模となる。

一方、森林に比べると、外資による農地取得の規模は相当小さい。同じく農林水産省のまとめによると、2017年から2022年までの6年間で、「外国法人又は居住地が海外にある外国人と思われる者」が農地を取得した事例は1件のみで、面積も0.1haに過ぎない。

また、2022年に確認されたその他の「外資」による農地取得事例を整理すると、以下のようになる。

・「外国法人又は居住地が海外にある外国人と思われる者が議決権を有する法人又は役員となっている法人」による農地取得:0.1ha

・「居住地が日本にある外国人と思われる者」による農地取得:142ha

・「居住地が日本にある外国人と思われる者が議決権を有する法人又は役員となっている法人」による農地取得:12ha

たしかに、調査の対象を「日本に居住している外国人」などにまで広げると、それなりの規模の農地取得が確認できる。しかし、外国に所在・居住する純粋な外国法人あるいは外国人による農地取得は、ほぼ確認されていないと言っても良いだろう。

では、一体なぜ森林と農地でこれほどまでに実態の差が生じているのか。その背景の1つとなっているのが、農地取引を厳しく規制する「農地法」の存在だ。

詳細は後編記事『拡大する「中国人」の《日本の土地買い占め》はどのぐらいヤバいのか…食料問題をめぐる「意外な現実」』で述べている。