森永卓郎氏 恒大集団の破産申請に「中国はバブル崩壊のツケを外資に回そうとしている」

 

中国・深圳にある恒大集団のビル(ロイター)

中国・深圳にある恒大集団のビル(ロイター)

中国の大手不動産会社、恒大グループが、米ニューヨークの裁判所に連邦破産法15条の適用を申請した。恒大グループは、「経営破綻したわけではない」と緊急声明を発表した。それは事実だ。

連邦破産法15条の申請が認められれば、恒大グループが米国内に保有する資産を債権者が直接差し押さえることができなくなる。恒大グループは、債務整理の一環として、米国破産法の申請をしたと主張しているのだ。

不動産業バブル崩壊に伴って恒大グループは資金繰りに行き詰まり、2年前に債券のデフォルト(支払い不能)に陥った。ところが、恒大グループは、地元政府の支援を受けて、経営再建に向かうことになった。経営破綻したのならともかく、会社が存続しているのに借金が払えないという理屈は通らない。だから、債券の株式化や支払期限の延長といった債務再編を拒んだ債権者が出てきた。そこで、連邦破産法15条を使って、債務再編を進めようというのが今回の申請の背景なのだ。

もう20年ほど前になるが、私が中国を訪れるたびに「中国政府は日本の轍を踏まないように、日本のバブル崩壊後の経済を徹底研究している」という話を聞いた。日本は、90年のバブル崩壊が金融機関に波及し、97年に北海道拓殖銀行、山一証券が経営破綻する金融危機に結びついた。そして、小泉構造改革の不良債権処理によって日本の貴重な企業資産がハゲタカ外資に二束三文で売り渡されることになった。

今回の中国の不動産バブル崩壊は、不動産業への融資規制によって中国政府自身が仕掛けたものだ。日本も大蔵省の総量規制でバブルをはじいたので、そこまでは一緒だ。ところが日本政府は、バブル崩壊で不良債権を抱えた企業を一切守らず、外資に売り飛ばして、日本経済低迷の大きな原因を作ってしまった。中国政府は、政府の力で不良債権企業を守ろうとしている。バブル崩壊のツケは、中国企業に資金を提供した外資に回そうとしている。中国が日本のバブル崩壊後経済の研究から学んだ最大の教訓は、外資に国内企業をたたき売ることで決着をつけるのではなく、外資に損をさせることで決着させるべきということなのだ。

恒大グループが本当に経営再建できるのかは、まだ分からない。ただ、はっきりしていることは、中国はバブル崩壊のツケを外資に回そうとしているという事実だ。それが本当に可能なのかは、まだ分からないが、今回の連邦破産法申請が意味するのは、中国への投資リスクがとても大きくなっているという事実なのだ。

森永卓郎

森永卓郎

森永卓郎

1957年東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。日本専売公社(現JT)、三和総合研究所などを経て現在、獨協大学経済学部教授。経済アナリスト。いち早くワーキングプア問題を予測した「年収300万円時代」や「年収崩壊」など著書多数。また、食玩、ミニカー、フィギュアなどのコレクターとしても知られ、コレクションの総数は10万点におよぶ。