オジギソウが“おじぎ”をするのはなぜ? 研究者が解き明かした葉を閉じる「しくみ」と「理由」

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オジギソウ(写真はイメージ/iStock)

 その名のとおり、手で触れるとおじぎをするように葉が閉じるオジギソウ。どんなしくみで、何のために葉を閉じるのだろうか。これまで科学的な根拠を示して答えを出した人はいなかった二つの謎を、埼玉大学大学院博士課程の萩原拓真さんと豊田正嗣教授らの研究グループが、目で見てはっきりわかるように解き明かした。小中学生向けニュース月刊誌「ジュニアエラ」(朝日新聞出版)7月号から紹介する。

■カルシウムのシグナルが伝わり葉が閉じる様子が見えた!

 オジギソウがおじぎをする動きには、葉のあちこちにある三つの「葉枕」のうち、おもに二つが関係している。葉枕が人間の指や手首、ひじなどの関節のように折れ曲がることで、葉が閉じたり、葉柄(葉を支える柄の部分)がカクンと垂れ下がったりするのだ。

 人間などの動物は、脳からの指令が電気信号として神経を伝わり、筋肉が動いて関節が折れ曲がる。しかし、植物であるオジギソウには神経も筋肉もない。それなのに、葉に触ることで葉枕が折れ曲がるのはなぜなのか。神経のように植物の体内にはりめぐらされた葉脈を、電気信号のようなものが伝わっているのだろうか。研究グループは、葉に触れたときの刺激が「カルシウム」(※1)のシグナル(信号)として伝わるためではないかと考え、その移動の様子を可視化(見てわかるようにすること)する実験装置をつくって確かめることにした。

 まず、遺伝子組み換え技術(※2)を使って、カルシウムがくっつくとGFP(※3)が緑色に光るたんぱく質を体内に持つオジギソウをつくりだした。光を当てると、カルシウムの濃度が高くなったところが明るく緑色に光って見える。それを撮影する実験装置をつくれば、カルシウムの信号がオジギソウの体内を移動する様子を動画で見られるというわけだ。

 工夫を重ねて実験装置をつくり、オジギソウの葉先にハサミで傷をつけると、すぐ近くの小葉枕が緑色に光り、さらに光るところが次第に遠くへ移っていく様子を撮影できた。光ったわずか0・1秒後には小葉枕が折れ曲がり、葉が閉じ始める様子も見られた。

【上】オジギソウの体内をカルシウムのシグナルが伝わる様子/葉をハサミで傷つけると(白矢印)、近くの小葉枕の細胞内でカルシウムの濃度が高まり、明るく光る(黄矢尻)。そのシグナルが次々に伝わり、葉が閉じていく(赤矢尻)。【下】バッタに葉をかじられたときのオジギソウの変化/バッタがかじった葉(白矢印)のすぐ近くの小葉枕の細胞でカルシウム濃度が高まり(黄矢尻)、それが次々に伝わって葉が閉じていく(赤矢尻)。バッタはやがて食べるのをやめて飛び去った(ともに画像提供/埼玉大学大学院理工学研究科博士課程・萩原拓真、豊田正嗣教授)【上】オジギソウの体内をカルシウムのシグナルが伝わる様子/葉をハサミで傷つけると(白矢印)、近くの小葉枕の細胞内でカルシウムの濃度が高まり、明るく光る(黄矢尻)。そのシグナルが次々に伝わり、葉が閉じていく(赤矢尻)。【下】バッタに葉をかじられたときのオジギソウの変化/バッタがかじった葉(白矢印)のすぐ近くの小葉枕の細胞でカルシウム濃度が高まり(黄矢尻)、それが次々に伝わって葉が閉じていく(赤矢尻)。バッタはやがて食べるのをやめて飛び去った(ともに画像提供/埼玉大学大学院理工学研究科博士課程・萩原拓真、豊田正嗣教授)

 このことから、オジギソウが触れられたり傷つけられたりしたとき、カルシウムのシグナルが葉脈を伝わり、小葉枕の細胞内のカルシウム濃度が高くなって葉が閉じるしくみが明らかになった。

■葉を閉じることでバッタが食べづらくなる!

 では、オジギソウが葉を閉じるのは何のためなのだろうか? 研究グループは、閉じた葉の上には広がった葉に比べて昆虫が止まりづらいから、食べられにくくなるのではないかと考えた。そこで、ゲノム編集技術(※4)を用いて、傷つけたり触れたりしても葉を閉じないオジギソウをつくりだし、触れると葉を閉じる通常のオジギソウ(野生型)と隣り合わせに並べ、バッタに葉を食べさせてみた。そして、食べられる前後の葉の重さを比較すると、葉を閉じないオジギソウは、野生型に比べて約2倍も重さが減っていた。つまり、バッタは葉を閉じないオジギソウのほうをより多く食べていたのだ。

 また、この実験でも、光るオジギソウを用いて、バッタに食べられるときのカルシウム濃度の変化と、葉の動きや昆虫の様子を撮影した。すると、野生型のオジギソウでは、バッタが葉を食べるとカルシウムが伝わるのに連動して葉が次々に閉じ、その後、バッタは食べるのをやめ、ほかの場所に移動していくことが確かめられた。

 豊田教授は、これらの結果からわかることを次のようにまとめてくれた。

「オジギソウは昆虫などに傷つけられると、危険信号としてカルシウムと電気のシグナルを全身に伝達させ、葉を素早く動かし閉じることで昆虫から身を守っていると考えられます」

 バッタの実験を50回以上繰り返したという萩原さんは、この研究の先に次のような発展を夢見ている。

「オジギソウの運動のメカニズムがよりくわしくわかれば、ほかの植物も葉を動かせるようにできるかもしれません。そうなれば、農業に利用できる可能性もあると思います。オジギソウのように葉を動かせる農作物をつくれば、昆虫に食べられにくくなりますから、殺虫剤を使う量も減らせますよね」

オジギソウがおじぎをするしくみと理由のまとめ(画像提供/埼玉大学大学院理工学研究科博士課程・萩原拓真、豊田正嗣教授)
オジギソウがおじぎをするしくみと理由のまとめ(画像提供/埼玉大学大学院理工学研究科博士課程・萩原拓真、豊田正嗣教授)

 オジギソウは夏休みの自由研究で人気のテーマでもある。アイデアや調べ方次第では、キミの自由研究から、社会に役立つ成果が生まれるかもしれない。

(取材・文/上浪春海)