4月8日に任期満了の黒田総裁が置き土産…日銀新総裁が抱える“三重苦”の中身

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「立つ鳥跡を濁さず」どころか…(日銀の黒田東彦総裁)(C)日刊ゲンダイ拡大する

 “貧乏くじ”の引き受け手はいるのか──。日銀黒田総裁は4月8日に任期満了を迎える。政府の後任人事案は2月10日にも国会に提示される方向だ。歴代最長の10年居座った黒田氏はいくつもの「ゆがみ」を生み出し、解決のメドすら立てずに退任する。新総裁は“三重苦”を抱えてのスタートを余儀なくされる。
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 新総裁は「信用回復」から始める必要がある。黒田氏は2013年に異次元金融緩和を開始し、「2年で2%の物価上昇」を掲げた。しかし、いつまで待っても物価は上がらず、“大ウソ”を続けた。結局、ウクライナ危機を機とした昨年来のインフレにより、2%の物価上昇が実現する“オチ”がついた。
 不意打ちだった16年のマイナス金利導入や昨年12月の“サプライズ利上げ”はマーケットから大ひんしゅくを買った。
自民党の茂木幹事長は17日の記者会見で、新総裁について「先行の見通しをしっかり持つことが不可欠」「丁寧な施策説明とマーケットとの対話を期待したい」と黒田氏へ嫌みとも取れる言い方をしている。

「黒田総裁の最大の罪は日銀への信用を大きく失墜したこと。目標は達成しないし、見通しは外れる。市場との対話が欠如しているのは、市場に配慮しながら利上げなどの金融政策を進める米国のパウエルFRB議長と比べれば明らかです」(金融ジャーナリスト・森岡英樹氏)
 黒田氏が国債を爆買いしたため、事実上の「財政ファイナンス」に陥っているのも深刻だ。17日も長期金利が一時、0.505%をつけ、3営業日連続、日銀が上限とする0.5%を超えた。金利を抑えるため、日銀は国債を無制限に買い取るが、すでに今月の国債購入額は17兆円を超え、過去最高を更新している。
「1月発行の国債はほとんど日銀が引き受けており、事実上の財政ファイナンスと言われても仕方がない」(市場関係者)という。財政ファイナンスは、政府の財政節度を失わせ、中央銀行の通貨増発に歯止めがかからなくなる危険があり、先進国では禁じ手とされている。
■異次元緩和の副作用を放置
 金利上昇に伴う「国債の含み損」も膨れ上がりそうだ。日銀によると、昨年9月末時点の国債残高1066兆円のうち、日銀の保有分は536兆円で、初の5割超となった。金利が上昇すると国債価格が下落し、含み損が生じる。

「9月末時点で黒田日銀下で初めての国債の含み損8749億円が出てしまいましたが、この先はさらに深刻になるのは間違いない。国債の爆買いが加速している上、金利が上昇するからです。満期保有が目的で民間企業のように損益には反映されませんが、巨額の含み損が増え続けると財務の健全性が問題にされることになります」(森岡英樹氏)
 雨宮正佳副総裁は国債金利が1%上昇すれば28兆円、2%で52兆円、5%で108兆円の含み損が発生するとの試算を示している。
「節度のない異次元緩和を実行したのは黒田総裁が初めてです。一種の実験ですから、経験したことのない副作用が出るのはやむを得ません。しかし、黒田総裁は課題をクリアしようとしなかった。これほどの宿題を残した日銀総裁は思い浮かびません」(森岡英樹氏)
 現在、日銀の雨宮副総裁や中曽宏前副総裁などが候補に挙がっているというが、新総裁の恨み節が聞こえてきそうだ。