ペット医療が高度化、動物病院にCT・MRI…獣医師「忌引休暇すら取れない」

 4月から各地の動物病院で新たな国家資格「愛玩動物看護師」が勤務を始める。採血や投薬など、獣医療行為の一部を担う人材の登場に、獣医療の高度化で長時間労働が課題となっている獣医師の働き方改革にも期待がかかる。(山下智寛、松下聖)

■休日も急患対応

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スタッフの補助を受けて、猫を診察する高橋院長(右)(11日、東京都大田区で)

 「獣医師は私1人だけなのに、20匹以上の犬猫の診察をこなさないといけない」。東京都大田区で「西馬込動物病院」を経営する高橋賢一郎院長(45)は、厳しい労働環境を打ち明けた。

 診察の合間には入院中の犬猫の採血やレントゲン撮影に追われ、休憩時間は臓器摘出や抜歯などの手術に充てる。休診日も急患の対応で出勤することが多い。

 最近の飼い主は病気の予防を目的に来院するケースが多く、「血液検査だけでは心配だから、レントゲンや超音波検査もしてほしい」と追加の診察を求められることもある。高橋院長は「診察数は10年前から倍増しているが、飼い主から頼まれれば、対応するほかない」と話す。

■延びる寿命

 ペットフード協会(東京)によると、医療費や餌代など犬猫の毎月の飼育費は増加傾向で、昨年は犬1万3904円、猫7286円と、4年前より1~3割増えた。それに合わせるように平均寿命も延び、犬は14・76歳、猫は15・62歳といずれも過去最長水準に達している。

 飼育数は減少しているが、飼い主の医療ニーズは高く、農林水産省によると、ペットを診察する獣医師は2020年に1万6000人と10年前の1・2倍に増加。定期的な健康診断として、人間ドックのような「ドッグ・ドック」や「キャット・ドック」を勧める動物病院も現れている。CT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)など高度な医療機器も次々に導入されている。

 一方、全国に約1万2000か所ある動物病院の6割超は、獣医師が1人の個人経営。農水省の担当者は「動物医療の世界は日進月歩。飼い主が高度な医療を求めた結果、獣医師の負担は増している」と話す。

 厚生労働省の調査によると、獣医師の残業時間は21年、月21時間に上り、医師(15時間)や看護師(6時間)など、ほかの医療従事者より長い。獣医師の転職を支援する「TYL」(東京)による昨年11~12月のオンラインアンケートでも、回答した獣医師109人の5割超が、「長時間労働と感じる」「残業が多いと感じる」と答えた。なかには「忌引休暇すら取れない」という意見もあった。

■「2割は頼める」

 愛玩動物看護師は、こうした高度化する獣医療に対応し、多忙な獣医師をサポートするために導入された。

 西馬込動物病院でも、スタッフ4人のうち3人が愛玩動物看護師を目指して勉強中だ。その1人(27)は「私が採血や採尿をできるようになれば、獣医師は別の仕事に集中できる。知識や技術を磨き、多くの動物の命を救いたい」と意気込む。高橋院長は「今の仕事の2割ほどは看護師に頼めるはず。獣医師が少ない病院の恩恵はとても大きい」と期待を寄せる。

 このほか、獣医療の充実策として、政府は日本獣医師会とともに、かかりつけ医の1次医療と高度医療を専門に行う2次医療を連携させるネットワーク体制の整備も進めている。農水省は「ペットの飼育が子どもの成長や高齢者の健康に好影響を与えるとの研究成果もあり、ペットは今後も家族の一員として大事にされるだろう。質の高い獣医療の提供に向け、獣医師と愛玩動物看護師の連携を強化したい」としている。

女性復帰支援も課題

 獣医師界でも、出産や子育てを機に離職する女性獣医師への復帰支援が課題となっている。

 農林水産省によると、獣医師を志す女性は年々増えており、2020年12月時点で、20歳代で全体の5割強、30歳代と40歳代で半分近くを占める。一方、20~50歳代で獣医師資格があるのに獣医療に従事していない割合は、男性獣医師1・9%に対し、女性獣医師は6・8%と高い。農水省は結婚や出産、子育てによる離職が原因とみている。

 日本獣医師会などは、女性獣医師の再就職を支援するポータルサイトを開設している。求人案内や子育てから仕事に復帰した女性獣医師の経験談を掲載しているほか、相談窓口を設けるなど、職場復帰に向けた支援に取り組んでいる。